今回の話をする前に、「 ハッカー は大手企業のみを攻撃のターゲットにしている」という固定観念は、捨てた方がいいと言っておきたい。
「どうせ盗みに入るなら、お金持ちを狙う」という一般的な認識から、“ハッキングするなら価値のある情報を「たくさん」保有していそうな大手を狙うもの”といった考えに至るだろう。
しかし、ここが穴場である。大手を狙うコストを考えると、いくら成功した時に得られる情報が「たくさん」あってもハッキング自体、割に合わない仕事になってしまうのだ。
最近では、大手に比べIT予算が豊富にないことから、セキュリティ対策が十分でない可能性の高い中小企業をターゲットにする傾向が見られているのである。
先日、シマンテック(Symantec)が公開したインターネットセキュリティ脅威レポート(Internet Security Threat Report 2016)によると、サイバー攻撃の約6割は中小企業やスタートアップ企業をターゲットとする攻撃と記述している。
当事者の立場から考えると驚く程の数値である。今回このコラムを借りて、なぜハッカーは、中小企業を狙うのかを簡単に説明したいと思う。
中小企業は狙われやすい
本来なら、価値のある情報が多そうなところを狙うと思われていたハッカーは、なぜ中小企業にそのターゲットを定めてきているのか。
実は、かなり論理的な考え方に基づいた賢い(?)選択だと筆者は思う。
中小企業の場合、この「サイバーセキュリティ」についてかなり誤解している部分がある。
まず、ホスティング業者やシステム委託先にセキュリティは考えて(対策して)もらっていると勝手に思い込んでいるのである。サイバーセキュリティは、当事者の責任の下対応していかなければならないものである。
2つ目は、「ハッキングされたら、その時に対応策を考えれば良い」と認識していることである。
つまり事後対応すれば良いと考えているのである。セキュリティへの投資は、リターンのない投資だ。
予算や人に限りのある中小では、やっぱり後回しにされがち。
最近のIncマガジン(The Big Business of Hacking Small Businesses, 2015)でも、71%のデータ漏洩事故は会社規模100人以下の中小を対象に行われていると言っている。
サイバー攻撃による各企業側の被害額を平均すると約3万6,000ドルを上回るそうだ。大企業としては大した金額でないかもしれないが、中小企業には死活問題に陥る危険性もあるだろう。
中小企業は、サイバーセキュリティに目を向けられないという現状を、ハッカーらは把握しているのである。
その他、理由は色々とあるものの、いまだにセキュリティ対策について全社的に真剣に取り組む中小企業は数少ないのが現状である。
重要な個人情報や企業機密等を安全に管理しなければならないのは、大企業でも中小企業でも差はない。
よってハッカーらも、「たくさん」情報を持っている大手を狙うコストとセキュリティのスカスカな中小を狙うコストを天秤にかけるだろうし、非常に合理的な判断として、中小企業を狙う方にシフトしていくのである。
それでは、中小のセキュリティ対策は、どうすればいいのか。
ここで言っておきたいが、セキュリティ対策は、継続的に取り組んでいかなければならないということである。つまり、一回の投資ですべてが万々歳ではないということ。
そして、外部からの攻撃は知られているが、内部者による情報漏洩にも気をつけるべきだ。
攻撃者がサイバー攻撃を試みる際、45%が試験的に自社に攻撃を仕掛けてみており、そのうちの29%は成功しているそうだ。
中小企業のセキュリティ、どのようにアプローチすべきなのか。
まず、自社のWebサイトが脆弱(ぜいじゃく)であることを認めることから始まる。
Webサイトの脆弱性を突いた攻撃は、場所を問わず起こり得る。サイバーセキュリティについて考え方を変えることが、サイバーセキュリティのための第一歩である。
次に、重要情報に対してのアクセスポリシーを策定することである。
これは、サイバーセキュリティを考慮する際には必須だ。内部者による犯行を未然に防ぐ、そして、社内にて情報管理の担当者としても、万が一の事故があっても本人を守ることができるのである。
そして攻撃ターゲットにある対象を守るためのソリューションを導入することである。
例えば、Webサイトのセキュリティであれば、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)が考えられるだろう。
最近は、クラウド基盤WAFサービスもかなり出ているので、リーズナブルな価格でシンプルにセキュリティ対策を実施することも可能である。
まずは、一歩を踏み出してみることが大切だ。非常に合理的な理由で中小企業を狙ってくるハッカーらに立ち向かうべく、中小企業側でも、サイバーセキュリティの第一歩を踏み出していくよう願いたい。